〜レオンのクラナン日記〜

クラナンしか出来ない人の日記。

僕の原点。後編



その日も僕は1人天神の街にいた。












今泉という地区のとあるCLUBで僕は1人の女の子と出会った。
ドイツ人ではない。










彼女はバーカン前のソファーに1人佇んでいた。
向かいの扉の向こうのフロアから洩れるビートとレーザービームにただ身を委ねているように見えた。












矛盾するようだが、僕はクラナンメインでやってるが(結果が伴っているかは別として)専ら狙うのはCLUBに来てなさそうな可愛らしい子である。











彼女もまた童顔で、背が低くきれいな肌の女の子だった。
年の頃はハタチ前後に見受けられた。










横のソファーが空いたタイミングですかさず話しかけた。

「1人できてんの?」

「ううん、友達はフロアで男の人と踊っとるよ」

「そうなんや。俺は1人できてんねん」

「あらそう。変わっとうね」

「君は福岡市内から?」

「そうよ、君は関西からでしょ?」

「えっ?!なんでわかんの?!?!」

「大袈裟ww誰に聞いてもそう言うよwwってかその言い方がもう関西人丸出しww」










この日もあっさり関西弁でオープン。
小手先のオープナーなど当時は必要なかった。











彼女がこの日最もタイプだった。
話してみれば僕より4つも歳上で、案外大人の余裕さえ感じる女性だった。











この日は僕が次の日仕事だったこともありLINEだけ交換して別れた。
翌週のアポはすんなり決まった。
同じく今泉の、ピザが有名なお店を予約した。











少し早く着いた僕は背筋を伸ばし、彼女の到着を待った。










「もう着いとったと?私も早く来たのに笑」

「あぁ、僕の家はすぐそこですから」

「ちょっと、何で敬語使うとww」

「いや、こないだ歳上と聞いたので...笑」

「なんそれw自分からナンパしといてなんいいよーとwこないだは馴れ馴れしくタメ口やったくせにw」










敢えて誠実系で、歳下であることを活かして攻めたと言えば聞こえがいいが、ただただ緊張していた。
今さら女の子に緊張するような僕ではなかったはずなのに、ダサい。










話してみると人懐っこい子ですぐに打ち解け、酒がすすめばあっという間に彼女との距離は縮まったように感じた。











彼女との会話は楽しかった。
彼女の気さくさに、僕の緊張はほぐれ、あっという間に幸せな時間は過ぎた。










「ちょっとトイレ行ってくるね」

そう言って彼女が席を立った刹那、僕は店員に視線を送り、胸の前で×を作る。










早く、早く、彼女が帰ってくる前に伝票持ってこい。
この時間は毎度果てしなく長い時間に感じる。









ここの店員さんは、そろそろお会計だとわかってくれていたようで、すぐに会計を持ってきてくれた。
気遣いのできるお店で、また使ってあげたいと思った。








「お待たせしました、○○円になります」
「はいはーい、ってあれ...??」










財布を忘れるという痛恨のミス。
どんだけ浮き足立ってるんだ僕は。











すかさず店員さんに向かって居直る。








「すいません、必ず戻ってくるのでツケてください。僕にええカッコさしてください」










話のわかる店員さんだった。
免許証を預けたのと同時に、彼女が戻ってきた。









「じゃ、帰ろっか」

「えっ?あ、うん」

「ごちそうさまでしたーーー」

「えっ、店員さん、会計は?」

「既にいただいておりますよ」










店長、グッジョブ。









終電で帰る彼女を見送り、歩いて自宅に戻り、再び先程の店へ。
「必ずまた使わせてもらいますね!」
そう言って深々と頭を下げて帰路についた。
それからそのピザのお店に行くことはなかったけど。








あの日以来、彼女と意気投合するのにはそう時間はかからなかった。
ごく自然に頻繁に会うようになり、ごく自然に色んな店に飲みに行って、ごく自然に彼女と体を重ね合うようになった。
2人とも、好きだとか付き合ってとは一言も言わなかった。










彼女とは本当に趣味が合った。
僕も広く浅い趣味を持つ人間だが、彼女は職業柄、様々なジャンルのトレンドに詳しい人で、これから流行る色んな店やアプリなんかを教えてもらった。










「このアプリこれから流行るけん見とって。」

そうやって彼女が紹介するものは数ヶ月のうちに必ず全部テレビで取り上げられていた。
ほんとにセンスのある子だった。










音楽の趣味も合った。
音楽も僕と同じでEDM
初めて出会ったあの日も滅多にCLUBにこないが好きなDJが来るから来ていたとのこと。










体の相性も抜群だった。
朝から晩までセックスしては仮眠を取り、飯も食わずに互いの体を貪り合う日もあった。


 






彼女と会って数ヶ月、別の女の子と遊びつつも、いよいよ僕は告白しようと思った。
互いに愛し合っているのはもはや確認するまでもなかった。









またある時2人で飲んだ。
僕はこの日告白のタイミングを探っていた。









いい感じに2人とも仕上がって、話を切り出そうとしたタイミングで、口を開いたのは彼女だった。










「私東京に転職することに決めたっちゃん」













僕はその言葉を理解するのに時間がかかった。










「来月。私は来月に福岡を出るの。」










また言葉が見つからない。
自分が福岡配属を言い渡された時以上の衝撃だった。










同時に、混乱するす頭の中にかつて僕が自分自身に誓った言葉がよぎった。









もう遠距離恋愛なんてしない。










迷った。言うべきか、言わぬべきか。










戸惑う僕を尻目に彼女は言葉を重ねる。

「レオン君、今までありがとね」










僕は本当にショックだった。

 








彼女が転勤してしまうことに対してではない。











その場で「それでもいいから付き合ってくれ」と言葉が出なかった自分自身にだ。











告白のタイミングさえ探っていたくらいの相手が、離れたところに行ってしまう、たったそれだけのことで迷いが生じてしまう自分の情けなさ。









その後終電で帰る彼女を見送るため西鉄の駅へと向かった。
僕たちは人目を憚らず改札前で長い口づけを交わした。


















そして僕はしばらくナンパから遠ざかった。









あれから半年。










性欲の処理に困らない程度にはまた女の子と遊ぶようになっていて、彼女のことを思い出すことも少なくなってきた頃、彼女から久しぶりにLINEがきた。










「久しぶり。来月福岡に帰省するけん、久しぶりに飲みにいこーよ」










離れて暮らした期間は大して長くはなかったが、話題は専ら今だからこそ言えるという当時の心境をぶっちゃけた話ばかりだった。










「レオン君、あの時私のこと好いとったろ?」

「そうやね笑 でも前の彼女も遠距離やったしよう言えんかったわ。」

「私、あの時告白されてたら絶対付き合ってたよ。」

「やろうね笑 じゃあなんで君からは気持ちを伝えてくれんかったの?好きじゃなかったの?」

「私も好きやったとよ。でも、それだけじゃどうにもならんって、わかっとると思っとったけん。」

「どうして?」

「レオン君は前の彼女とは遠距離恋愛で上手くいかんやったって言ってたやん?私達は出会うタイミングを間違ったんよ」












僕はこういう人と結婚せないかんのやろうなと思った。











無論、その時も今からでも遅くない!付き合おう!だなんて言えるはずはなかった。












それでもその日僕は彼女を自宅へ誘った。
彼女は拒んだが無理矢理グダを崩した。
そう、あの頃僕は女の子と会えばセックスしなければ勿体無いと思っていた。











この日は今までのように興奮するセックスではなかった。
むしろ、火照る体とは裏腹に心は急速に冷え込んでいった気がした。











彼女は悲しい顔をしていた。
ほとばしる性欲を吐き出し、果てた僕の目に映る彼女はあまりにも脆い微笑みを浮かべていた。










僕はとんでもないことをしたと思った。
取り返しのつかないこと。
大切な女性を深く傷つけてしまった。











この瞬間から彼女との思い出は美談ではなくなってしまった。
彼女にとってもそうだろう。












彼女とはその後も交流は続いている。
良き友達として。
またもし会ってもセックスすることはないと思う。
あれからしばらく経って、ある時彼女と電話している時に言われたことがある。











「あの日、そこに愛はなかったとよ」










我々は何のためにセックスをするのか。
理由なんて別に必要ない。
ヤりたいものはヤりたい。
理由なんてそれで構わない。











スト値が低くても構わない。
後から後悔するような即でもかまわない。
ただ、抱いた女の数だけ自分自身がもっといい男に成長できるようなワンナイトではありたい。












それからまた半年経って、僕も福岡から去ることになり、再び関西に戻ってきた。
本当に九州の女の子は男を立ててくれるイイ女ばかりで、本当に本当にお世話になった。











殊更、彼女には僕の女性に対する接し方や覚悟を改めさせられるいい経験をさせてもらった。









基本的に僕はナンパした子は即ればその後会うことはないのだけれど、彼女のように魅力的な女性に出会えてやはりナンパしててよかったと思う。










だからやっぱりまだナンパはやめられない。
一晩限りと割り切った関係から始まるからこそ、非日常の素敵な出会いがあるはず。
これからもナンパは僕を成長させる為のツールでありたい。